オリヴィア・ハッセーが亡くなった。享年73歳。その悲しいニュースを受け、「ロミオとジュリエット」(1968)の共演者レナード・ホワイティングは、彼女の死を告知するハッセーのインスタグラムに、妻のアカウントからメッセージを投稿。「何も知らない子供だった時から多くのことを分かち合ってきた」相手であるハッセーに向け、「君はこの世の中の間違っていることを正すために闘うことを恐れなかった」、「僕の美しいジュリエット、もう不正のせいで傷つくことはないよ。世の中は君のことを外見も中身も美しかった人として記憶し続けるだろう」との言葉を送っている。
事実、ハッセーとホワイティングは、つい2ヶ月前まで、「ロミオとジュリエット」のヌードシーンについて裁判で闘っていたのだ。最初に訴えを起こしたのは、今から丸2年前の2022年12月30日。その訴訟は2023年5月、裁判所により棄却された。そして今年2月、関連する件で新たな裁判を新たに起こしたのだが、そちらも10月に別の判事によって棄却されている。人生の終盤、若い頃の自分の身に起きたことを正したいという彼女の願いは、無念にもかなわなかった。
映画の公開から54年も経ってハッセーとホワイティングが最初の訴訟を起こしたのは、「#MeToo」を受けて未成年に対する性犯罪についての時効を撤廃する一時的措置が切れるのが、その年の末だったから。その少し前には、エアロスミスのリードシンガー、スティーブン・テイラーも、1970年代の交際相手で当時16歳だった女性から訴訟を受けている。正義を果たすための最後のチャンスへの駆け込みだ。
ハッセーとホワイティングは、撮影当時、それぞれ15歳と16歳。ヌードになる必要はなく、ベッドシーンは肌色の下着をつけて撮影すると言われていた。しかし、撮影期間の終わり近くになり、そのシーンを撮る日が来ると、フランコ・ゼフィレッリ監督は、ヌードで演技をするよう強要してきたという。「それをやらなければ映画はうまくいかない」、「これまで映画のために使われた大金が無駄になる」、「そうなったら、お前たちは、ハリウッドはおろか、どこからも雇ってもらえない」と脅され、若いふたりは従わざるをえなかった。さらに、ゼフィレッリ監督は、ヌードで演技をしたシーンはカメラで撮影しないと言って説得してきたとも、ふたりは主張している。
「ロミオとジュリエット」撮影時、ハッセーとホワイティングは未成年だった(Paramount Pictures)
ゼフィレッリ監督は2019年に亡くなっており、この訴訟の被告は製作配給のパラマウント・ピクチャーズ。本人たちの知らないところで撮影された未成年のヌードで利益を得るのは違法であり、搾取、ハラスメントであると、ふたりはパラマウントの非を指摘。ふたりが「児童ポルノ」と呼ぶ撮影体験で受けた苦痛は大きく、その後、長年にわたって心理セラピーや医師の治療に通うことになり、仕事の機会が失われたとし、この映画で5億ドル以上儲けたパラマウントに対して1億ドルの損害賠償を要求している。
これを受け、パラマウントは、表現の自由を侵害する不当な訴訟を阻止するカリフォルニア州の反対スラップ法が適用されるべき事例だと、裁判所に対して棄却を要求。裁判所も、この映画は法的に「児童ポルノ」に当たるものとは言えず、そもそも原告は一時的に時効が撤廃された州法のもとで訴訟するのに必要なステップを取らなかったとして、パラマウントの言い分を受け入れた。
2度目の訴訟は4Kデジタル復刻版のリリースがきっかけ
それから1年もしないうちにふたりが起こした2回目の訴訟は、ザ・クライテリオン・コレクションから4Kデジタル復刻版DVDがリリースされたことに対してのもの。被告は、パラマウントに加え、ザ・クライテリオン・コレクション、クライテリオンを所有するジャナス・フィルムズだ。
ふたりは、自分たちの演技はオリジナルの映画のためのもので、35mm以外のフォーマットで再使用することに同意していないと抗議。ヌードのディテールに手が加えられ、高画質でよりはっきり見えるようになったことで、またもや精神的苦痛を受けたとも訴えた。ハッセーは、「2022年に訴訟したことへの仕返しとして、パラマウントがクライテリオンにこの企画を提案したのだと信じている」と述べている。
だが、判事は、「問題のベッドシーンも含め、一般人の目で見て、オリジナルの映画とそれほどの違いは見られない」と、被告の主張を否定。また、ハッセーとホワイティングは、長年の間、アニバーサリー上映などこの映画に関連するイベントに出席しており、インタビューでもこの映画を人々に見続けてもらうことへの反対意見を言ったことはなく、事実上、同意を示してきているものだとして、再び棄却が言い渡されてしまった。
この結果に不服なハッセーとホワイティングの弁護士は、ふたりに控訴を勧めるつもりだと、判決当時、コメントをしていた。ホワイティングが「間違っていることを正すために闘うことを恐れない」と称えたハッセーは、諦めずに控訴に挑むつもりだったのだろうか。いずれにせよ、今は、辛かったことは忘れて、天国でゆっくり休んでほしい。ホワイティングが言うように、私たちは、あなたのことを、外見も内面も美しかった人として、ずっと記憶し続けるのだから。