日本酒造組合中央会理事・宇都宮仁氏「日本の酒造りは日本人が伝えていかなければならない文化」|注目の人 直撃インタビュー

公開日:2024/12/23 06:00 更新日:2024/12/23 06:00

日本酒造組合中央会理事宇都宮仁氏(C)日刊ゲンダイ

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日本酒、本格焼酎(※)・泡盛、本みりんを醸す日本の伝統的酒造りが今月5日(日本時間)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。日本からは23件目となる。登録に向けた取り組みを4年前から行ってきたのが、全国1600の酒類メーカーが所属する日本酒造組合中央会(以下、中央会)、日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会、日本酒造杜氏組合連合会だ。中央会理事に話を聞いた。 ◇ ◇ ◇

──伝統的酒造りとは?

ユネスコに登録された英語名称では「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術と知識」。酒そのものを指しているのではなく、酒造りの技、知識、周辺との関わりを評価された形です。こうじ菌を使って発酵させる技術は日本人の生活文化と密接に結びついていて、日本酒、本格焼酎・泡盛、みりん全てに共通しています。

──酒造りに関わる人の反応はどうですか?

それだけの評価を受ける仕事だと再確認し、やる気が湧いてきた、誇りを取り戻したといった声を聞いています。蒸した米や麦にアスペルギルス属のこうじ菌を繁殖させて行う日本の酒造りの方法はほとんど知られていない。日本人が伝えていかなければならない文化です。

──2013年に無形文化遺産登録された「和食」の海外での人気が高まっています。日本の酒はどうでしょうか?

日本酒に関しては、10年ほど前から海外に積極的に輸出するメーカーが出てきました。輸出金額は昨年度で411億円、この10年で4倍近く伸びています。ワインと同様に食事と楽しめる、ワインにはない特徴がある品質の高い酒として認知度が高まりつつあります。一方、焼酎は国内でのブームもあってメーカーも海外進出に目を向けておらず、ほぼ知られていませんでした。

──その状況は変わってきていますか?

焼酎の大手メーカーでは海外営業部門を設けるところが出てきています。バーでカクテルのベースにも使えるよう、海外市場をターゲットにした高アルコール度数の焼酎も登場。私はずっとGoogleトレンドで「SHOCHU」をチェックしていますが、検索回数が上がってきています。海外の専門誌で焼酎が取り上げられ、そのweb版の記事を読むと「5年前にバーで隣に座った人に焼酎について知っていることを教えてくれと尋ねたら白い目で見られただろうが今は違う」といった出だしから始まっていたのが印象的でした。

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公開日:2024/12/23 06:00 更新日:2024/12/23 06:00

ユネスコ登録発表時。左端が宇都宮氏(本人提供)

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──注目されるようになった理由は? 私たちが地道にやってきた活動がようやく芽が出てきたというところでしょうか。例えば世界のトップバーテンダーやミクソロジスト(果物や野菜、ハーブなどを使用しオリジナルカクテルを創作する作り手)の招聘です。彼らが蔵を巡って焼酎造りを目の当たりにし、造り手のポリシーを聞き味わってみることで、きちんと管理されて造りこまれた、原料の風味が感じられる素晴らしい酒だとわかってくれた。専門家同士は用語が近い。こちらが感じていることは向こうも感じとってくれる。私がポーランドで焼酎の紹介をした時のことですが、彼らは芋焼酎が初めてにもかかわらず、すぐに「オレンジピールの香りがする」と反応してくれました。

──海外で焼酎のコンテストやカクテルコンテストも開いているそうですね。

焼酎部門を設けた蒸留酒のコンテストはかなり前からありますが、そこで受賞しても、焼酎の海外での認知度は上がりません。そもそも知られてなければ受賞したから手に取ってもらえるということはないのです。 私たちが主催するカクテルコンペティションはアメリカで2回、イギリスで3回開いており、今年はフランスでも開催します。参加者には、焼酎の蔵巡りをしてファンになったバーテンダーによるセミナーを事前に受講して試飲してもらい、焼酎の特徴を知ってもらった上で、カクテルレシピを作ってもらうようにしています。

──最近、ニューヨーク州やカリフォルニア州で「SHOCHU」としてレストランで販売できるようになったと聞きました。

2022年にニューヨーク州、23年にカリフォルニア州のアルコール飲料管理法が改正されたのです。アメリカではワインやビールなどのソフトリカーライセンスと、蒸留酒のライセンスが異なり、ソフトリカーライセンスしかないレストランでは蒸留酒は扱えません。 ただし、「SOJU」(韓国焼酎)はアルコール度数24%以下であれば特例としてレストランでの販売が認められていました。それぞれの文化を尊重する形で24%以下の焼酎は「SHOCHU」として同じように提供できるようにしてほしいとロビー活動を行い、法改正へとつながりました。これがきっかけとなり「日本にはSHOCHUという蒸留酒がある」と報道されるようになり、その結果、注目度が少しずつ上がってきたとも見ています。

──まずは存在を知ってもらうことが重要?

アルコールは世界どの国においても規制が厳しい。焼酎を流通させたいから一方的に輸出して小売店に置くというわけにはいかないのです。受け入れる側から「焼酎という酒が欲しい」というニーズがあって初めて輸出ができる。 焼酎は原料がさまざまで、それらの原料によってさまざまな味わいのものが出ていますが、どういった焼酎が好まれるか以前に、まずは焼酎というブランドを確立させなくてはなりません。今、世界的にワインの出荷が減少し、蒸留酒への関心が高まっています。蒸留酒のマーケットは常に新しいものを探しています。焼酎を使って自分の店だけのオリジナルカクテルにしようと考えているバーテンダーやミクソロジストはかなりいます。

──課題は?

空港の免税店に焼酎を置いていますが、値段が安く、高級日本酒やウイスキーのように「高いけどかっこいい」というものがない。お土産で買うなら、見た目にこだわり、ある程度の値段のものでないと。バーに並べるにしてもそうです。特徴的なラベルであり、唯一無二のボトルデザインだからこそ、バーシーンに映える。焼酎のメーカーはこれまで地元の消費者に向け、いかにおいしいものを安く提供するかを考えてきた。海外で販売するとなると、マーケットに合わせてその意識を変えなくてはなりません。

──焼酎カクテルが話題ですね。

日本ホテルバーメンズ協会と協力し、焼酎のフレーバーを感じられるベーシックカクテルを考案中です。海外での蒸留酒の飲み方は、食中ではなく、食前か食後。それなら焼酎のベーシックカクテルを作れないか。マティーニやネグローニのようなカクテルを焼酎で作ってみるなどですね。焼酎はポテンシャルの塊ですよ。 (聞き手=和田真知子/日刊ゲンダイ) ※本格焼酎とは、米などから麹(こうじ)を作り、米、麦、芋、黒糖などの原料を入れて発酵させ、出来上がったもろみを単式蒸留機で蒸留して造った焼酎。酎ハイやサワーのベースによく使われる甲類焼酎とは異なる。本文の焼酎は全て本格焼酎のこと。

▽宇都宮仁(うつのみや・ひとし) 1959年3月17日生まれ。京都府立大学大学院農学研究科修了。83年国税庁入庁。国税局、独立行政法人酒類総合研究所も経験。2018年退職。19年から現職。海外業務、広報、焼酎事業、清酒技術を担当。「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の副会長。著書に「最先端の日本酒ペアリング」(共著)、「うまい酒の科学」(部分)など。

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