東京・江東区の豊洲市場で5日、新春恒例の「初競り」が開かれ、276キロの青森県大間産クロマグロがこの日の最高値の2億700万円で競り落とされた。都によると、記録の残る1999年以降で2番目の高値。仲卸「やま幸(ゆき)」と「鮨 銀座おのでら」などを運営するオノデラグループが共同落札した。その後解体が行われた都内のすし店には、横綱・照ノ富士(33)が来店。一番マグロで握られたすしを2貫ほおばり、12日に初日を迎える大相撲初場所に向け気炎を上げた。
午前5時10分に開始を告げる鐘が鳴らされると、売り手の威勢の良いかけ声が飛び交った。買い手は値段を指で示す「手やり」という合図で次々と新鮮なマグロを競り落としていく。その中で、一番マグロの栄冠に輝いたのは、青森県大間町の漁師・竹内正弘さん(73)が取った276キロのつややかなクロマグロだった。
やま幸とオノデラグループが、最高値のマグロを落札するのは5年連続。やま幸の山口幸隆社長は「目方と雰囲気がいいし、高くなるとすぐわかったし、鮮度が抜群なので狙いにいきましたよ」と品質を絶賛した。年末に水揚げされたマグロが多い中で、最高値のマグロは今月4日のもの。これまでの最高落札額は、旧築地市場(中央区)から豊洲市場に移転後、初の新年を迎えた2019年の3億3360万円で、今回はそれに次ぐ記録となった。
一番マグロは、オノデラグループの東京・表参道にある回転ずし店に運び込まれて解体。手際がいい職人が部位を分離させるたびに、スタッフや報道陣から大きな拍手が湧き起こった。握りずしで6000貫分ほどになり、この日は同店で1人2貫限定、1160円(税込み)で提供。2か国計12店舗のおのでらグループ系列店などにも順次発送される予定だ。
3時間待ちで入店し、人生で初めて一番マグロを食べたという都内の会社員・北田栄哲さん(27)は「脂が多くてとろける。1160円、安いです」と満足げ。「年始のマグロ漁師のドキュメント番組が好きで、一度一番マグロを食べてみたかった。来年はお店に一番乗りして一番初めに食べたい」と早くも来年を心待ちにしていた。
一番マグロを捕った竹内さんは大間町の自宅で記者団の取材に応じ「夢みたい。あと何年できるか常に不安だが、とんでもなくうれしい」と喜んだ。漁師歴25年で、最高値は2年ぶり8回目という超ベテラン。今回が最も高値だった。マグロは4日午前8時ごろ、はえ縄によって津軽海峡で捕獲。巨体が目に入ると「牛のように太っていて、勝負になる」と直感したという。
マグロ解体が行われたすし店には、照ノ富士がサプライズ登場。マグロが次々とさばかれる様子を見学した。解体したてのマグロで作られたすしを堪能し「縁起ものを場所前に食べることができて幸せ」とえびす顔だった。
今回の見学は「一番マグロの実物を一度、見てみたかった」という照ノ富士が関係者にお願いして実現。「初場所で優勝したら、このマグロのおかげだね」と口調も滑らかだったが、どんな味なのか食レポをしつこく頼むと「え~」とやんわり拒否。その代わりに「記者さんが並んで食べてみてよ。おいしいから」とアピールも忘れなかった。
照ノ富士は昨年7月の名古屋場所で優勝した後に糖尿病、両膝痛、腰痛などで秋場所と九州場所を全休していた。出場すれば3場所ぶりとなる初場所で、一番マグロが巻き返しへの吉兆となるか。(樋口 智城)